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日本アメリカ史学会第14回年次大会 プログラム概要

日本アメリカ史学会会員の皆さま

本年9月23日(土)、24日(日)に愛知県立大学(長久手キャンパス)で開催いたします、第14回年次大会のプログラムの概要をお知らせいたします。皆さまの積極的なご参加をお待ちしております。

なお、詳しいプログラムは7月中旬頃にメイリングリストでお届けいたします。大会参加登録と懇親会申込みも7月頃からお願いいたします。

日 程:2017年9月23日(土)~24日(日)
開催地:愛知県立大学(長久手キャンパス)

プログラム
9月23日(土)
14:00~17:30  
シンポジウムA
「言論空間から見るアメリカ史 ——奴隷制問題をめぐる印刷文化と連邦体制」(仮)

【趣旨】
 アメリカ合衆国史で言論が果たした役割は何か。2016年選挙を見たわれわれにとって、言論を民主政の原動力と素直に考えることはできなくなっている。世には、R・ホフスタッターにならってアメリカの反知性主義文化を難じる議論が盛んであるが、歴史研究者であれば、こうした社会評論に加わる前にせねばならないことがある。それは、アメリカの言論とはどのようなものか、時代ごとの実態を究明することである。
 このシンポジウムで議論の前提とするのは、印刷物を通じて同一の情報を全国民が共有し、それに基づいて国政が動くようになるのは、早くても 19 世紀後半を待たねばならなかったことである。言葉をかえれば、州権が強く、移動運輸網が未発達であった19世紀中葉までは、アメリカ各地に地域特有の言論空間が存在していた。
 こうした言論空間の多様さを端的に示したのが、奴隷制をめぐる言論であったことは言うまでもない。奴隷制をめぐる反対と擁護の主張は南北で妥協できないほど強硬なものとなり、連邦を切り裂いて南北戦争と再建期の大動乱を生みだす。この奴隷制をめぐる地域間対立については、南北それぞれで融和的な立場があったことが知られているが、それを地域ごとの言論空間の実態と照合しながら再検討したものは少ない。
 そこで、このシンポでは奴隷制をめぐって形成された言論空間の実態を明らかにする報告を立て、それぞれの地域にできた空間がどのように連邦を変容させたのかを検討することとした。報告者は肥後本芳男氏、朝立康太郎氏、中野博文氏の三人である。肥後本氏は1830年代から40年代はじめの北部で展開した奴隷制廃止運動についてその印刷物の流通と請願棚上げ問題を論じ、また朝立氏は北部の反奴隷制運動と呼応するかたちで形成されていく南部の奴隷制擁護の言論空間について明らかにする。そして中野氏は南北戦争から再建期にかけて南北の言論空間がどのように変化したのかを、反奴隷制運動の代表者であったチャールズ・フランシス・アダムズとその子らの活動を通じて議論する。
 これら三つの報告を通じて浮かび上がるのは、アメリカの発展をめぐって社会運動家と政党、出版社が繰り広げた州や地域コミュニティにおける活動、そしてその活動がもたらした州間関係や連邦政府の役割の再定義である。人々は国内の他地域や国外と人的ネットワークを築き、奴隷制をめぐる議論を有利に進めるため、活動の輪を広げていった。このような言論空間の動態を歴史的に検討すれば、21世紀アメリカ社会とはまったく異なる様式で動いていた歴史のなかのアメリカを指し示すことができよう。
 そして、このような異なる言論と社会の関わりを知るならば、単にアメリカ合衆国史研究をゆたかにするだけではなく、アメリカ民主主義の理解を広げ、これからのアメリカとの関係構築にも裨益すると企画者は信じる。

報告:
肥後本芳男(同志社大学) 
朝立康太郎(西南学院大学)
中野博文(北九州市立大学)

コメント: 
佐々木孝弘(東京外国語大学)

司会:
久田由佳子(愛知県立大学)

総会 17:35~18:20 

懇親会 18:30~20:30  場所:愛知県立大学構内を予定
      
9月24日(日)
10:00~12:00
自由論題 
【セッション1】
①中村信之(大阪大学)
「戦前期日米学生会議 -知的交流の場としてのミドルグラウンド」
 
②水野剛也(東洋大学)
「戒厳令下のハワイ日本語新聞と統制 真珠湾攻撃から報道許可制度の施行まで」
 
③上林朋広(一橋大学・院)
「複数の自伝、複数の書き手、複数の自己:ブッカー・T・ワシントン自伝の出版史的考察(仮)」

司会:大津留(北川)智恵子 (関西大学)

【セッション2】
①竹林修一 (同志社大学・講)
「マルクスからフロイトへ:1960年代ラディカリズムと性解放運動」
 
②宗像俊輔(一橋大学・院)
「鉄道システムがつくった労働規範―セントラル・パシフィック鉄道の「従業員用時刻表/服務規程集」を例に―」

③相川裕亮(慶應義塾大学・院)
「ビリー・グラハムと彼のお気に入りの政治家たち:リチャード・ニクソンとマーク・ハットフィールドにおける「罪」と「預言」」

司会:野口久美子 (明治学院大学)

13:00~16:00
シンポジウムB
「マイノリティ史研究と環太平洋世界」
 アメリカ史研究において、人種・エスニックなマイノリティの歴史の研究は1970年代以降に勃興した「新しい社会史」を牽引する分野であった。マイノリティ史は、白人で中産階級のストレート男性を中心とした歴史を「アメリカ史」そのものとしてきた従来の支配的な叙述のあり方に対して異議を申し立て、新たなアメリカ史叙述を追求する上で、重要な貢献をなしてきた。
 しかし、そのマイノリティ史は近年、曲がり角に直面している。トランスナショナリズムの視点やグローバル・ヒストリー研究の分野から、合衆国のマイノリティ史研究が、ナショナルに閉じた形で行われていることへの批判が寄せられるようになった。マイノリティ史研究は、これまで国民国家のなかでマイノリティとして周縁化された人びとの歴史的経験を研究対象とし、主流社会の権力や国民性を相対化するために発展してきた。それゆえにナショナルな境界を枠組みとして設定する必然性があったことは確かであるが、国民国家概念を中心に記述/分析していくことがもたらす視点の硬直性を乗り越えるために、パラダイムシフトやアプローチの刷新が求められている。
 マイノリティ史研究の刷新のための手がかりを模索する上で、近年のエスニック・スタディーズ、特にアジア系アメリカ研究における新しい方向性が重要である。特に近年、アジア系アメリカ研究においてトランスパシフィック論が発展している。これはマイノリティ研究としてのアジア系アメリカ研究を、アメリカン・スタディーズおよび地域研究としてのアジア研究の分野とつなげていくことで、ナショナルに閉じていたアジア系アメリカ研究にトランスナショナルな視角を投入し、学際的な研究を目指すものである。日本においても、日系移民研究を中心にトランスパシフィック論が発展し、太平洋両岸で行われる知の構築プロセスをめぐるトランスナショナルな対話や連携を重視した研究が発表されている。
 本シンポジウムでは、こうしたアジア系アメリカ研究の新しい知見を生かしつつ、エスニック・スタディーズにおいてはしばしば手薄な歴史的視点を積極的に導入することを通じて、アメリカ史研究と環太平洋的マイノリティ研究を架橋し、このリンケージを新しいアメリカ史叙述の可能性を模索する手がかりにすることを目標とする。
 まず菅(七戸)美弥氏が、従来ナショナルな文脈で検証されてきたアメリカ・センサス史と、出移民研究への関心が希薄となっている日本人移民・移住史のリンケージを念頭に、幕末、明治初期の激動期のトランスパシフィックな移動の軌跡を、査証、日米双方の新聞などの一次史料と1860年、1870年のセンサス調査票を相互参照することであらたな光を当てる。次に、李里花氏が20世紀前半のハワイにおけるコリア系移民の舞踊を事例に、東アジアにおける近代舞踊と新たな女性像の台頭がハワイのコリア系移民に与えた影響を論じ、これまでローカルな文脈で検証されることが多かった舞踊史に地域横断的な視点を投入し、舞踊史の地域的リンケージを検討する。最後に松坂裕晃氏が、戦間期にニューヨークなどで活躍した左派の運動家、石垣綾子・栄太郎夫妻の活動を主な題材として、アジア系とアフリカ系、日系とコリア系といった人種・民族関係を考察しながら、「マイノリティ」や「帝国」、「人種主義」などの概念を、米国と東アジアをまたいだ文脈において再検討する。

報告:
菅(七戸)美弥(東京学芸大学)
李里花(多摩美術大学)
松坂裕晃(ミシガン大学・院)

コメント:
兼子歩(明治大学)
徳永悠(京都大学)

司会:
佐原彩子 (大月短期大学)

13:00~16:00
シンポジウムC
「アメリカ史のなかの『余暇』」
私たちがアメリカ合衆国の歴史を教える際、映画、アミューズメントパーク、スポーツ、旅行、ショッピングなど、余暇に愉しまれていた活動を教材にすることは非常に有効であり、学生からの人気も高い。それは、余暇が自由で解放的な性格を持ち、時代の写し鏡として人々の姿を生き生きと映し出すからである。しかし、私たちが注意を払わねばならないのは、余暇は権力と相関し、ヘゲモニーの一部として秩序やシステムの安定に寄与してきた側面も持つということである。一見すると個人が自由に選択したかのように見える余暇の行為は、人種やジェンダーによって規定され、資本主義や消費文化と複雑な形で絡み合い、主体的でもあり受動的でもあった。
 余暇と権力の関係は、それぞれの時代の社会環境を背景により細やかに検討する必要がある。アメリカ史のなかで、余暇を取り巻く社会環境が変化したターニングポイントがたびたび現れた。労働と余暇が未分化であった18世紀の職人文化から、「8時間の労働、8時間の余暇、8時間の休息」の必要性が唱えられた19世紀末へ、そして、ワーク・ライフ・バランスと生活の質的向上が重視される現代まで、余暇のありかたは労働環境の変化に対応してきた。また、恐慌や戦時下という特殊な時期や空間における余暇の理解も検討するべきであろう。さらには、余暇は非公式な私的領域においても、秩序と構築の維持に関わってきた。労働と家庭を取り巻く状況が変化し、家庭制度の分離領域(separate spheres)のバランスが変化した時、「家庭内」や「私的空間」における余暇の理解はどのような影響を受けたのか。
 本シンポジウムは、権力の作用に注目して、アメリカ史における余暇の特徴と変遷を検討する。余暇研究(Leisure Studies)は文化研究の一つとして、学際的な発展を見せてきた。しかし、アメリカ史のフィールドにおいては散発的な研究は見られるものの、統合的な検討が行われることは少ない。そこで、本シンポジウムでは、「余暇はどのように理解されてきたのか」、「人々は余暇に何を、誰と、どのように実践したのか」、「それにどこまで自由/不自由だったのか」など、余暇の内実を問い直し、余暇と労働をめぐる議論の充実を目指したい。

報告:
川島浩平(武蔵大学)
北脇実千代(日本大学)
南修平(弘前大学)

コメント:
板津木綿子(東京大学)

司会:
畠山望(東京大学・院)


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2017年05月08日 10:02に投稿されたエントリーのページです。

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