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アメリカ史研究会 第 205 回例会

テーマ: ミニ・シンポジウム「公民権運動再考」

日時: 2003 年 12 月 20 日(土)14:00 - 17:30

会場: 明治大学駿河台キャンパス・リバティタワー 19 階第六会議室

論者および題目:
川島正樹(南山大学)
 「バーミングハム闘争40周年にちなんで
   — 複数の合意文書から地域社会への意義を考察する試み」
藤永康政(山口大学)
 「公民権、ニュー・レフト、労働運動の交錯点
   — 革命的黒人労働者連盟を中心に」

コメンテーター: 細谷典子(一橋大学・院)、大八木豪(東京大学・院)

司会: 大森一輝

本ミニ・シンポジウムは、ワシントン大行進40周年にあたり、公民権運動の成果とその後を見直すという趣旨で企画された。報告では、まず、川島正樹氏が、1964年のバーミングハム闘争について、自身のオーラルヒストリー調査を踏まえ、闘争の経過を丁寧にたどることで、この運動が必ずしも綿密に計画されたものではなかったこと-偶発的な事態の展開と混乱-を明らかにした。その上で、その「成果」については、連邦政府による介入と法整備につながったことを一定評価しながらも、地域闘争としての意味/意義のさらなる追究が必要であると問題提起した。

続いて藤永康政氏が、主にデトロイトにおける黒人労働運動を題材に、1960年代後半の(特に北部における)黒人運動の性格と、それが陥った隘路-黒人労働者や下層階級を糾合したものの、ニュー・レフトとはすれ違い、「リベラル」とは対立する中で、旧来の左翼的発想では労働市場の外に出されてしまった人々の問題を解くことができず、組織拡大の結果、最終的に分裂し、弾圧されて衰退する、というプロセス-について報告した。さらに、「公民権運動後」のアメリカ社会が、公民権法・投票権法にもかかわらず、黒人にとっては「監獄社会」と言うべき様相を呈しているという主張を紹介しつつ、人種差別が形式上タブーである社会における人種主義追及の困難を指摘し、「公民権」概念の問い直しを含めた新たな取り組みの必要性を説いた。

コメンテーターの細谷典子氏からは、公民権法・投票権法の評価、公民権運動が残した課題としての経済的不平等、南部社会のその後の変化と隔離廃止後の人種問題、それらを踏まえ、国民国家の「成功」物語に回収されないローカルな視点からの公民権運動の見直しの可能性などについて、大八木豪氏からは、公民権運動が目指したもの、その実態と(特に他のマイノリティが参照する公民権運動の)イメージとの乖離、さらには、見えにくくなった人種主義との関係で、被差別集団への補償問題などについて、それぞれ質問が投げかけられた。川島氏からは、公民権運動後も人種が最大の問題であり続けているという認識が示され、運動がどのように継続していったのか、そして、コミュニティが運動を生み出すのではなく、運動がコミュニティを作り出す中で、階級や立場・年齢や性差を超えるものがどのようにして生まれるのか、という点に注目したいとの回答があった。藤永氏は、現在、すでに刑期を終えている者も含め多くの有罪確定者から投票権が合法的に剥奪されているという事実を指摘し、従来の「公民権(運動)」の概念では捉えきれない人種問題の存在とその扱いの難しさを強調した。

フロアとの質疑応答では、南部の運動の偶然性の程度、公民権(運動)のより大きな歴史の中での位置づけ、運動の転換/変質/断絶などについて質問が出された。特に2番目の点については、冷戦期の「総力戦体制」下での国民統合、より一般的に言えば、近代における国民国家の内側での平等化と公民権運動の関係が示唆され、そうした「体制」あるいは「近代」そのもののある種の「終焉」にもかかわらず、「国民の権利としての公民権」を超える公民権(国境を超えた人権)概念とそれを追求する主体の未成熟が指摘された。関連して、晩年のマルコムXが、人種問題を訴えに行く場所をワシントンではなくニューヨーク(国連)だと考えていたことが紹介され、黒人運動の射程とその変化、今後の方向性・可能性について議論が交わされた。

オーラルヒストリーにおけるインタビューの方法についてなど、他にもいくつか質問が出されたが、時間の制約のため十分に取り上げることができなかったのは残念であった。しかしながら、全体として、公民権運動の性格・「成果」とその後の停滞を大きなスケールで見直す、刺激的な会であった(例会後の忘年会も盛況で、その場でも熱い討論が続けられた)。

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2004年09月14日 21:32に投稿されたエントリーのページです。

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